ネット上には怪しい論文があふれています。
最近増えているオープンアクセスジャーナルは、無料で読めるオンライン論文誌です。これまで論文誌を読むには、高い購読料を払わなければなりませんでした。ですが、オープンアクセスジャーナルは読者ではなく、寄稿する研究者がお金を払うシステムになっています。
このシステムを利用して、お金さえ払えば正式な学術論文として掲載してしまう悪徳出版社が増えています。なかには査読を偽装したり、著名な研究者を無断で編集委員として記名するといった悪質な事例もあります。そのような出版社はハゲタカ出版社(Predatory Publishers)と呼ばれています。
なぜそんな所に寄稿するかと言うと、その背景はさまざまです。評価を上げるために論文の数を増やしたい研究者や、クラウドファンディングをふくめた出資を募るスタートアップ(特に利権の絡みやすい医療系など)も出資者の信用を得るために利用します。
そのようなケースでは、ハゲタカ出版社と研究者(あるいは企業)は、もちつもたれつで共犯関係にあるといえますが、経験の浅い研究者や新興国の研究者が甘い言葉にだまされて寄稿をしてしまうケースもあります。このことは、数年前から世界中の大学や研究機関で問題になっています。
コロラド大学の図書館司書、Jeffrey Beallさんは、「Beall’s List」というハゲタカ出版社のリストをまとめていることで知られています。そこにリストアップされているScientific Research Publishing(SCIRP)は、特に悪名高い出版社のひとつなんですが、そのサイト上では著者情報もふくめた論文の詳細を検索できるようになっています。
じゃあ、日本国内の大学で一番寄稿数の多い所はどこだろう? という疑問から、SCIRPのデータを解析して問題提起をしたのが、和歌山大学の和田俊和教授でした。そして、彼のアイデアに、より精度の高い解析データを補足したのが名古屋大学宇宙地球環境研究所の奥村曉氏です。奥村氏のデータから抽出してランキングにした結果がこちら。
1位は東京大学で107件、2位の九州大学は99件。以下国立大学が多くを占めています。ただし、各大学に所属する研究者の数は異なるので、ここで言えるのは投稿数だけ。大学の傾向がどうなのかは別に考える必要がありそうです。ちなみに海外の有名大学を見ると、清華大学(中国)57件、ハーバード大学40件、スタンフォード大学28件、ケンブリッジ大学23件、MIT16件です。この中で最も多い清華大学でさえ、日本で10位の名古屋大学の69件を下回っています。
いずれにしても、海外の大学と比べて日本の大学の研究者が怪しげな論文誌に寄稿しがちなのは確かなようです。なぜそうなったのかは、研究者の業績が論文の質よりも数で評価されがちだからじゃないかとか、若い研究者にリテラシーがないからだとか、議論は多々あるようです。
でも、きちんとした査読もされない所で、いくら発表論文を増やしたところで、それは砂上に楼閣を建てるようなものかもしれません。
(12/14 10:30追記)
和田氏のアイデアと問題提起、それを受けて精度の高いデータ解析をされた奥村氏の功績についての説明が不十分なまま記事を公開してしまいました。記事内容を補足の上、お詫び申し上げます。
Photo by quinn.anya via Visualhunt / CC BY-SA
source: Beall’s List, 宇宙線実験の覚え書き