MVNOの興亡と大手キャリアの逆襲、新機軸に踏み出したスマートフォン

MVNOの興亡と大手キャリアの逆襲、新機軸に踏み出したスマートフォン

ここ数年、「格安SIM」「格安スマホ」に顧客を奪われる一方、総務省からの指導の影響などもあり、やや旗色の悪かった大手キャリアだが、今年を振り返ってみると、各社個別の課題は残されているものの、料金プランや販売施策などでも新しい方向性を打ち出し、反転攻勢を強めた一年だったと言えるだろう。

まず、MVNO各社との戦いで、ユーザーからももっとも比較される料金面については、やはり、NTTドコモとauの料金プランが挙げられる。NTTドコモは今年5月、従来から展開してきた「カケホーダイ&パケあえる」のシェアパック向けプランとして、月額980円の「シンプルプラン」を追加した(※関連記事)。これは通話定額がない基本プランだが、データ通信はシェアパックになるため、すでにNTTドコモと契約しているユーザーは、月額1780円で回線が追加できるというものだった。本来は子どもなど、家族用に新規に回線を追加することを狙ったものだが、月額1780円という料金は多くのMVNO各社の3GBのデータ通信が可能な音声プランとほぼ同額であるため、実質的には『MVNOキラー』とも言えるプランだった。しかも端末購入に伴う月々サポートが適用されると、機種によっては月々の支払い額がマイナスになってしまうほどのインパクトを持つ(端末代金の負担はあるが……)。

発表時に示された「シンプルプラン」の料金例

これに加え、NTTドコモでは5月の2017年夏モデル発表会において、新しい割引サービス「docomo with」を発表した。これは月々サポートなどの購入サポートを適用しない代わりに、対象機種を購入した場合、対象外の機種に変更しない限り、毎月1500円を割り引くというもので、対象機種は夏モデルの段階で2機種、冬春モデルでは3機種が追加され、合計5機種から選ぶことができる。

MVNOの興亡と大手キャリアの逆襲、新機軸に踏み出したスマートフォン

対象機種になる機種もNTTドコモへの納入価格に一定の制限があり、各メーカーが仕様面などに工夫を凝らした3万円台のコストパフォーマンスの高いモデルをラインアップしている。docomo withは本来、端末を長く使うユーザーにとって有利なプランだが、「対象機種を使い続ける」という条件もNTTドコモの登録上の話でしかなく、購入した端末を手放し、自ら購入したSIMフリースマートフォンを使っても割引が継続されるため、SIMフリースマートフォンを使いたいMVNO指向のユーザーにも適しているという特徴を持つ。

一方、auは7月に従来プランとはまったく別の「auピタットプラン」「auフラットプラン」を発表した。この新プランは端末購入に伴う毎月割を適用しないことを条件に提供される割安な料金プランで、auピタットプランは今年の学割で導入されていた段階制のデータ定額をベースにしており、auフラットプランはデータ通信量が20GBと30GBの大容量プランとして提供されている。従来プランも並行して提供されるため、損得勘定が難しいところが残念だが、auピタットプランは月々に利用するデータ通信量が変動するユーザーに応えたものであり、auフラットプランは毎月ある程度、データ通信を利用してきたユーザーが存分に使えるだけのデータ通信量を提供したものとなっており、いずれもキャンペーンと組み合わせることで割安感を演出し、MVNO各社に対抗しようとしている。

NTTドコモとauに対し、何も目立った動きをしていないように見えるソフトバンクだが、サブブランドとして展開しているワイモバイルがまさにMVNOと販売店の店頭でも激しい販売競争をくり広げており、今年はそちらへの注力が目立った印象だ。ちなみに、昨年や一昨年は各社のキャッシュバック合戦が話題になったが、最近、ワイモバイルはSIMカードのみの発行(新規契約)に伴い、キャッシュバックなどの施策を行なう店舗があると伝えられており、販売促進に多くの資金を投入できないMVNO各社にとっては、非常に厄介な存在となっている。

こうした各携帯電話会社の攻勢はまだ市場に浸透しはじめた段階でしかなく、今後、ユーザーの機種変更などのタイミングが一巡する頃には、MVNO各社が今まで以上に厳しい状況に追い込まれることは容易に想像できる。やはり、資金力の差、貸す側と借りる側の立場の違いは如何ともしがたいのかもしれない。

だからこそ、このタイミングで楽天は、再編される1.7GHz/3.4GHz帯の割り当てに手を挙げ、総務省も「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」で新たな規制に乗り出そうとしているのだろう。いずれも今後の動向が気になるところだが、これらについてもまた別の機会に説明したい。