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エンガジェット日本版 相次ぐスマホ新料金、楽天参入肩透かし──2019年モバイル業界振り返り(石野純也)

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2019年も残すところあとわずか。今年も、いよいよ最後の連載になりました。そこで今回は、筆者自身の記事を元に1年を振り返りつつ、来年をざっくり展望してみたいと思います。

菅長官「4割値下げ」発言で新料金プラン相次ぐ

今年のモバイル業界を一文字で表すとすれば、「金」かもしれません。実際のところ、本連載でもドコモやauの新料金プランに関する記事は、よく読まれたようです。連載PVランキングで言うと、4位にドコモの新料金プランをセルフシミュレーションした記事が、12位に楽天モバイルの10月サービスインに疑問を投げかける記事が、そして14位にauの新料金プランに関する記事が入りました。

▲ドコモの新料金プランを皮切りに、様々な料金が発表された1年だった時系列で振り返ると、2018年にはすでに予告されていましたが、4月にはドコモが新料金プランの「ギガホ」「ギガライト」を発表。これに対抗する形で、auも5月に定額制の「auデータMAXプラン」を打ち出しています。結局は本格参入が先送りされてしまいましたが、楽天モバイルも10月に無料サポータープログラムを開始しています。

▲10月には、楽天の無料サポータープログラムが始まった菅官房長官が「4割値下げする余地がある」と発言したのは2018年のことでしたが、こうした発言を受け、料金プランに落とし込まれるのにはやや時間がかかります。"謎のアンケート"を取ってまで契約解除料を1000円に引き下げたり、端末の割引上限を2万円に設定したりと、規制を行う総務省サイドもかなりバタバタだったことがうかがえます。これに引きずられる形で、auのアップグレードプログラムが開始後すぐに改定されるなど、キャリア側も対応に四苦八苦していた様子が垣間見えた1年でした。ちなみに、上記のauデータMAXプランも、2年縛りの違約金や2年縛りなしの金額を改めるのと同時に、名称が「auデータMAXプランPro」に変わっています。7月に開始したばかりなのに、正直ヤヤコシすぎてユーザーが置いてけぼりになりそうです......。

▲auは、5G時代を先取りしていち早く定額の「auデータMAXプラン」を投入

ドコモ「Amazonプライム1年無料」など他社サービスとの連携が増加

とは言え、2020年も料金からは目が離せません。動きがありそうなのは、5Gがサービスインを迎えるタイミング。ドコモが春、auとソフトバンクは2020年3月を予定しています。超高速通信や低遅延でおなじみの5Gですが、どのような料金設計になるのかも注目しておきたいところ。大容量のため、使い放題プランが主流になることが想定されていますが、auのNetflixパックのようなバンドルプランも増えそうです。ドコモもAmazonプライムが1年無料になるキャンペーンを発表した際にバンドルプランの投入をにおわせています。

▲ドコモは、Amazonプライムのキャンペーンでバンドルプランの投入を示唆。5G時代には、サービスをセットにした料金が増えそうだ

分離プラン導入でハイエンドスマホ一辺倒ではなくなる

お金には、通信料だけでなく、端末代も含まれます。料金そのものを下げる代わりに導入された分離プランですが、代わりになくなるのが、「月々サポート」などの端末購入補助です。行って来いになるため、結局のところ総額はあまり変わらないはずなのですが、いわゆる"実質価格"が打ち出せなくなるため、店頭での端末代はどうしても値上がりしたように見えてしまいます。同時にスマホ自体の性能も上り、以前のようにハイエンドモデル一辺倒ではなくなっています。こうした状況を受け、MVNOだけでなく、大手キャリアもミドルレンジモデルを拡充しています。取り扱いモデルだけでなく、読者のミドルレンジモデルに対する関心も高まっているようです。その証拠に、Engadget上で、年間、もっとも読まれた筆者の記事は、Googleのミドルレンジスマホである「Pixel 3a/3a XL」を速報で紹介した記事でした。この記事がアップされた直後に、なぜか筆者自身の名前がTwitterのトレンドに入ってしまったことは、今でも覚えています。注目されてるの、そっちじゃないから!

▲話題になるだけでなく、筆者までTwitterでトレンド入りしてしまったPixel 3aなぜかPixel 3aの名声を横取りしてしまった筆者ですが、5位にはファーウェイの「nova lite 3」の記事が、6位にはASUSの「ZenFone Max Pro(M2)」の記事がラインクインしており、ミドルレンジモデルの強さを感じさせた1年でした。ZenFoneの方は、回収のお話だったのが残念ですが、その後、販売は再開しており、ミドルレンジの売れ筋の一角になっていることはフォローしておきたいと思います。また、16位にはSnapdragon 710を搭載し、おサイフケータイにも対応しながらギリギリ3万円台を実現したOPPOの「Reno A」に関する記事もランクインしています。

▲MVNO専売モデルとして発売されたファーウェイの「nova lite 3」

▲まさかの取り違えで海外モデルが出荷され、回収騒ぎになってしまった「ZenFone Max Pro(M2)」ミドルレンジモデルと一括りにしがちですが、Pixel 3aシリーズは、カメラ機能がフラッグシップモデルのPixel 3とほぼ同じ。ボディの素材や搭載するチップセットだけを抑えたモデルで、全体的に性能を抑える一般的なミドルレンジとは、やや開発思想が異なっています。ただ、筆者としてはこの考え方がものすごく腑に落ちました。処理能力とカメラの画質は本来、価値としては別物ですが、ほかのモデルではなぜかそこが完全に連動しているんですよね。処理能力はそこそこでもカメラは譲れないという層は必ずいるはずで、Pixel 3aシリーズはここを狙ったモデルと言えます。年末に急きょ日本に参入したXiaomiの「Mi Note 10 Pro」も近い発想のスマホで、チップセットは最上位より一段落ちますが、カメラは業界トップクラスです。ミドルレンジの性能自体も底上げされているため、2020年はこんな一点豪華主義的なスマホがもっと増えてくるかもしれません。

eSIMも徐々に浸透

お金の話とも微妙にリンクしますが、eSIMに関する記事の反響が大きかったのも、ギークな読者の多いEngadgetならではと言えそうです。3位にはIIJのeSIMプランを実際に使ってみた記事が、8位にはアメリカでT-MobileのeSIMを購入した際の顛末をまとめた記事がランクインしています。eSIMは、2018年に登場したiPhone XS、XS Max、XRに搭載され、日本でも徐々に普及が始まっています。この機能はiPhone 11シリーズにも引き継がれたほか、Androidのメジャー端末では、10月に発売になったPixel 4/4 XLもeSIMを搭載しました。

▲IIJがeSIMサービスを開始したことも、話題を集めた国内では、eSIMに割安なMVNOを設定することで、普段の電話番号を使いつつ、データ通信料だけを節約できます。このような使い方は、大手キャリア各社が始めた段階制の料金プランと相性がよく、実際にIIJも同様の訴求をしています。それ以上に節約効果が大きいのが海外渡航時で、ドコモやauの国際ローミングが24時間980円になった今でも、トータルで見ればeSIMの方が割安に利用することができます。iPhoneのeSIM対応以降、海外キャリアやMVNOも続々とサービスを開始しているため、今後も注目しておきたい技術と言えます。

▲現状では、海外旅行、出張時に便利なサービスとして徐々に広がっている。写真は米T-MobileのものIIJのeSIMはまだβ版で、2020年には正式な料金プランが登場することが期待されています。現状では、料金が1種類で向き不向きがはっきり分かれてしまいますが、小容量プランやシェアプランなどを投入すれば、より幅広いユーザーが選べるようになるはずです。契約からアクティベーションまでが簡単というeSIMの特性を生かしたプリペイドサービスなどにも期待したいところです。また、来年は、IIJ以外でも、NTTコミュニケーションズがフルMVNOを開始する予定で、OCNモバイルONEとしてeSIMのサービスを投入する可能性があります。海外キャリアや海外MVNOが先行しているeSIMサービスですが、2020年は国内事業者の動きに注目が集まる1年になることを期待しています。それでは、皆さん、よいお年を!石野純也の週刊モバイル通信