Apple独自のチップ・M1を搭載したMacBook Airが登場しましたね。速い速いといわれてますが、実際使ってみてどうなのか、米GizmodoのCitlin McGarry記者がベンチマークも含めて詳細レビューしています。
MacBookってここ最近、そんなに変化してませんでした。たしかに世代が進むごとにスペックは少しずつ向上してきましたが、見た目も性能もだいたいは同じでした。今回の新MacBook Airも、デザインという意味ではそんなにラディカルな変化じゃありません。でもその中身は、今までのあらゆるMacBook Airと全然違います。ベンチマークすると、もっとずっと高価な最新Windowsマシンよりも速いんです。
このパフォーマンス向上を可能にしたのが、AppleがMacのためだけに作ったSoC(システムオンチップ)・M1です。ざっくりいうと、M1は5nmアーキテクチャで作られていて、8コアのCPUと、8コアのGPU(ただしMacBook Airのベースモデルだけは7コア)、そして1秒で11兆回の演算処理ができる16コアのNeural Engineが載っています。つまり機械学習を伴うアプリやタスクが、今までより速くなります。
M1はIntelやAMDの最新チップにひけをとっていません。そしてMacBook Airは、RAMやストレージをアップグレードしない限り、そうした競合チップ搭載マシンよりずっと安いんです。もともと高く評価されてきたMacBook Airですが、M1によってどう進化したんでしょうか?
M1搭載MacBook Air(2020年モデル)
これは何?:Apple内製チップで刷新された、Appleのエントリレベルラップトップ
価格:ベースモデルは1,000ドル(国内価格104,800円)から。レビュー機は1,650ドル(国内価格169,800円)。
好きなところ:すごいバッテリーライフ、M1による光速のパフォーマンス、新しい便利なファンクションキー
好きじゃないところ:Webカメラはアップグレードが必要、GPU8コアのモデルはベースモデルより高くなる
大興奮のベンチマーク
まずテクニカルなところから。私がレビューしたMacBook Airは8コアCPU・8コアGPU・ユニファイドメモリ16GB・ストレージ1TBで、お値段は1,650ドル(国内価格169,800円)になりました。これはベースモデルの1,000ドル(同104,800円)よりはだいぶ高額ですが、ベースモデルではGPUが7コア、RAMが8GB、ストレージが256GBになります。
正直これまで、MacBook Airのベンチマークをしててもそんなにワクワクはしませんでした。でも今回は、違います。
私は先週、MacBook AirのCPUとGPUに対しベンチマークを実施し、その結果を米Gizmodo編集部のWindows使い・Joanna Nelius(新しいグラフィックスカードの発売に心から興奮できる人物)に送り、その反応を見てみました。するとテスト結果を送るたび、少なくとも以下の反応のひとつが返ってきました。
「すげー。すっげーーー(訳注:放送禁止用語含む)」
「WOW WOW WOW」
「なんじゃこりゃ?!?!」
Macというのはただでさえ、Windows命な人の心を捉えるとこういう反応になりがちです。でもM1の8コアCPUは、4コアがパフォーマンス担当、4コアが効率担当で、本当に信じられないくらい速いんです。他の8コアチップと比べても、差が現れてます。
システムのパフォーマンス全体をテストするGeekbench 5では、新MacBook Airのスコアはシングルコアが1712、マルチコアが7441となりました。これは、最先端のCore i7 - 1165G7搭載で1,500ドル(約156,000円)の新Dell XPS 13よりずっと速いってことです。Dell XPS 13のスコアは、シングルコアで1214、マルチコアで3833でした。また8コア16スレッド・7nmアーキテクチャのAMD最新チップ、Ryzen 7 4800U搭載のLenovo IdeaPadのスコアも、シングルコアが1129・マルチコアが5478で、新MacBook Airには及びませんでした。
Geekbenchに似てるけどもっと時間がかかり、その分CPU・GPUの性能を正確に把握できると期待できるCinebench R23では、MacBook Airのスコアはシングルコアが1490、マルチコアが6931でした。11世代Intelチップと16GBのRAMを積んだDell XPS 13は、シングルコアで1420・マルチコアで4207でした。ただAMDチップ搭載のLenovo IdeaPadはシングルコア1061・マルチコア7225と、新MacBook Airをマルチコアのスコアで若干超えています。AMDはマルチコアのベンチマークや重いタスクではたいていトップになるので、このへんはわりと想定内です。
GPUのスピードをテストするHandbrakeで、4K動画ファイルを1080pに変換するのにかかった時間は、新Macbook Airは8分52秒でした。Dell XPS 13は17分24秒と比較にならず、Lenovo IdeaPadでさえ9分04秒と遅れを取りました。
3D画像をレンダリングするBlenderでは、新Macbook AirはCPUでの処理は6分24秒、GPUでの処理は7分54秒でした。Dell XPS 13ではCPUが9分47秒、GPUが10分50秒、Lenovo IdeaPadではCPUが9分37秒・GPUが9分09秒と、やはり新MacBook Airにかないません。この結果のすごいところは、BlenderがIntelベースのMacアプリを動かすエミュレーションソフトウェア・Rosetta 2の上で動いていたことです。つまり新MacBook Airはエミュレーターのレイヤーをはさんでも、Windowsの最新マシンより相当速いんです。
ただ、人工的なベンチマークテストとかありがちなタスクでは好成績を出していても、MacBook Airは統合GPUに共通の問題は抱えています。実際のゲームのベンチマークにおけるフレームレートは、グラフィックスカードが別立てのマシンに比べると低くなっていました。『Shadow the Tomb Raider』でベンチマークしたときは明らかにフレームのガタつきがありましたが、その原因がゲームがM1に最適化されていないせいなのか、M1がグラフィックスの重いゲームをさばききれないせいなのかはわかりませんでした。それでも、このベンチマークでは1080p・Highの設定で、32fpsという許容できるフレームレートでした。
Mac App Storeから直接ダウンロードしてきた『Civilization VI』のベンチマークでは、ラグがなくバターみたいに滑らかでした。ターンタイムは13.1ミリ秒と、ほとんどのゲーミングラップトップよりやや遅れつつも、16インチMacBook Proの19.2秒よりだいぶ速いです。新MacBook Airは明らかにゲーミングラップトップではないので、ゲーム目的でレビューはしませんが、よりハイエンドな新MacBook Proとか、さらに熱処理がそれほど制限にならないiMacとかではどうなっちゃうのかはすごく楽しみです。
実際の使い心地は?
このパフォーマンス、実際の毎日の使い心地はどうなっていくんでしょうか? 小さなもろもろが、大きな変化になります。新MacBook Airは開くと一瞬で立ち上がり、懐かしいAppleのジャーンという音ももれなく付いてきます。この2020年、私はごくささやかな、普通のことにこそ懐かしさを感じるようになりましたが、このジャーンもそのひとつです。また新MacBook Airはファンレスですが、プロセッサーに負荷をかけるベンチマークを立て続けに動かしていても熱くなりません。一番熱くなったときでも華氏111度(摂氏約44度、赤外線温度計で測定)で、測定部位は『Shadow the Tomb Raider』をガンガン動かした後の筐体の底面でした。私が普段使っている13インチMacBook Proは、Chromeのタブを開きすぎると街中で轟音をたてて走る戦車みたいになるので、気の短い私にとって、静かでクールな新MacBook Airは神の恵みになりそうです。
Appleの純正アプリの立ち上がりも一瞬で、M1に最適化されたサードパーティアプリも同様です。Pixelmator Proを開いて写真を読み込むのはあっという間でした。全デベロッパーがM1に対応するまでには少し時間がかかると思われ、たとえばAdobe PhotoshopのM1対応は2021年初旬とされてますが、もし対応すれば世界が変わるレベルです。
Mac App Storeを新MacBook Air(またはM1搭載の他のMac)で開くと、アプリ検索のときにMacアプリのタブと、iOSアプリのタブが見えます。ダウンロードしたいアプリにmacOS版がなくて、ユニバーサルアプリ対応のiOS版ならあるという場合、macOSでも後者をダウンロードしてiPhoneとかiPadのように使えます。iOSアプリの全部をMacでも使えるわけじゃなく、使えても多少の制限もあります。たとえばHBO MaxアプリをMacBookに入れてストリーミング動画を見る場合、ウィンドウサイズを調整できません。NetflixはMac App StoreではMacアプリとしてもiOSアプリとしても入手できません。これができればMacBookでオフライン視聴できるはずなので、ぜひやってほしいとこです。
バッテリーライフで人生変わる
新MacBook Airで最大の変化は、これ本当に巨大な変化なんですが、バッテリーライフです。M1は今までのIntelのチップより電力効率が高いので、新MacBook Airのバッテリーライフは正直とんでもないです。新MacBook Airのバッテリーは動画再生テストで14時間以上持ち、これはこの数年の我々のテストではほぼ最長で、例外はヨーロッパでしか買えない構成のLenovo IdeaPad Slim 7くらいです。
このバッテリーが実際使う上でどんな感じかというと、友人と1時間FaceTimeした後も、9%しか減ってませんでした。バッテリー浪費が激しいChromeで長時間仕事してても、新MacBook Airは死にません。それに対し、2020年5月にレビューしたばかりの私の13インチMacBook Proは、8時間10分しか持ちませんでした。このコロナ禍が終わったら、私は展示会で1日使えるマシンとか、旅行中に電源が見つからなくてもOKなマシンが必要になりますが、新MacBook Airは(多分Proも)そんなニーズを簡単に満たせそうです。
ファンクションキーはナイス、カメラは今一歩
他にも新MacBook Airにはいくつか変化した部分があり、そのひとつは新しいファンクションキーです。私は今Touch Bar搭載MacBook Proを使ってますが、Touch Barはあんまり使ってません。新MacBook Airには3つのファンクションキーが加わり、ひとつはSpotlight検索、ひとつは音声文字入力、ひとつはおやすみモードで、日々の生活にはTouch Barよりはるかに便利です。代わりに、Launchpadへのショートカットとキーボードの輝度設定がなくなってますが、私的には問題ないです。
もうひとつ変わったのは、前面カメラの画像信号プロセッサが改善し、Appleいわくビデオ電話の画質が良くなったそうです。たしかにわりとその通りで、私は暗めの部屋でFaceTimeしてみたところ、今までほどザラザラの映りじゃありませんでした。でも解像度が720pなので、新27インチMacを含め最近のMacでは標準になっている1080pには全然及びません。テレワークが続いてビデオ会議が日常の大きな部分を占めるようになった今、Appleにはぜひカメラのアップグレードをお願いしたいです。
MacBook好きなら、M1搭載版入手は必至
でも全体的に、新MacBook Airは私が使った中でベストなラップトップです。薄くてポータブルで、パフォーマンスはすごいし、バッテリーライフはこれからまた外出できるようになれば人生変わるってレベルです。そしてM1へのアップグレードでもたらされる価値を考えると、コストパフォーマンスは突き抜けてます。単に今まででベストなMacBook Airってだけじゃなく、これまでよりはるかに遠く差をつけたベストです。
私はまだ一番安い7コアGPU新MacBook Airを試してないので、1,250ドル(国内価格129,800円)・8コアの構成にした場合と何が違うのかはまだわかっていません。グラフィックス的に負荷の高いタスクでは若干遅くなるかもしれませんが、予算の都合でProよりAirだなと思ってる人なら、どちらにしてもProレベルのスピードは求めてないわけですよね。
そして楽しみでもあり悩ましくもあるのが、新MacBook Proの存在です。それは新MacBook Airよりほんのちょっと重く、少し高い方の新MacBook Airより50ドル高い設定です(日本では5,000円差の134,800円から)。AirにもProにもM1が搭載されてるのはうれしいですが、どっちを買うか悩む理由にもなります。新MacBook Airと新MacBook Proの差がどれくらいあるのかまだはっきりはわかっていませんが、Proのほうがファンで冷却するので、Airより速くなっているんじゃないかと思われます。
2020年がMacの年になるとは予想だにしませんでしたが、2020年は予想外だらけの1年でした。でもAppleのラップトップのファンがM1搭載MacBook Air・MacBook Proを買っちゃうであろうことは、予想するまでもなさそうです。
まとめ
・バッテリーライフはものすごいです。
・M1のおかげでパフォーマンスも大幅増強。
・机上で考えると、MacBook Proの方がお買い得かもしれません。
・ファンクションキー最高!
・重い処理をしててもファンなしでクールなのもすごいです。