トラックパッドでどう変わる? 新型iPad Pro実機ハンズオン

トラックパッドでどう変わる? 新型iPad Pro実機ハンズオン

新型iPad Proが発表されたとき、僕は心底びっくりしました。カメラが2つになったことや、LiDAR搭載については予想されていましたが、まさか本当にトラックパッドに対応するなんて。しかもトラックパッドとキーボードが一緒になったケース「Magic Keyboard」まで出るなんて。

個人的にこれは大事件です。キーボードに加えて、トラックパッドに対応するとなれば、iPad Proが本格的に仕事に使えるマシンに進化するかもしれません。そのスタート地点に立った気がするのです。

今回、3月25日にリリース予定のiPad OS 13.4がインストールされた新型iPad Pro 12.9インチをお借りすることができました。トラックパッド対応でiPad Proの使い方がどう変わるのかを見ていきましょう。

あらたにLiDAR搭載、その実力はまた今度

本体の大きさや厚さは前モデルと変わっていません。重量は10gだけ増えています。

プロセッサはA12Z Bionic。前作のA12X Bionicに比べて熱効率が改善されたほか、グラフィック性能は2.6倍速くなりました。

外見で一番わかりやすい変化はやっぱりカメラ周りですよね。

今回のiPad Proからカメラが2つに。iPhone 11シリーズと違ってカメラのまわりが光沢のあるブラックで塗りつぶされ、レンズが目立たなくなりました。こっちの方が見た目はかっこいいと思うのですが、iPhoneよりもカメラのまわりのホコリが目立つようになってしまった気がします。

上が超広角カメラ(10MP)、下が広角カメラ(12MP)です。そして右側にあるのがLiDAR。これが発光した光が物に反射して戻ってくるまでの時間を解析することで、最大5mまでの3D空間を認識することができます。また、iPadOS 13.4と同時にLiDARに対応した新しいARKitがリリース予定。つまり、これからLiDAR対応のARアプリがたくさん出てくるんです。LiDARの機能を試すのはそのときまで楽しみに待っておきましょう。

ちなみに純正のカメラアプリではLiDARを活用した新機能はありませんでした。ポートレートモードも前モデルと同じくフロントカメラのみ対応していました。

指でできることはトラックパッドでぜんぶできる

さぁ、トラックパッド!Bluetooth設定からMagic Trackpadを接続すると、設定アプリの中に「トラックパッド」というメニューが現れました。この中でカーソルの軌跡の速さなどを調整できます。

接続しただけでは何も起こりませんが、トラックパッドの上で指を動かすと、カーソルが現れます。よく見ると背景の明るさによって色が変わる...! 芸が細かい…。指を離すと2秒ほどで消えます。消えるまでの秒数は設定で変えられますよ。

これが話題になっていたカーソルの変形。ボタンに吸いつくようにカーソルが形を変えます。狙いをさだめなくていいぶん、楽に操作できますよ。この吸いつく挙動が苦手な場合は、アクセシビリティの設定からアニメーションをオフにすることもできます。

一番使いやすくなったと感じたのはテキストの扱い。カーソルがテキスト用に変形するのはもちろん、ドラッグでテキスト選択したり、ダブルクリックで単語を選択したり、トリプルクリックで一行選択したり、パソコンでお馴染みの操作にグッと近づきましたよ。

コントロールセンターは右上のエリアをクリックするだけでアクセスできます。下にドラッグしなくていいのは楽。

ホームバー(正式名称:Home Indicator)もクリックするだけでホーム画面に戻ります。

いっぽう、現行のアプリではカーソルがうまく機能しないことも。たとえばKeynoteアプリでは、トラックパッドを使ってオブジェクトを移動しようとするとうまくいったりいかなかったり。YouTubeアプリではシークバーをうまくクリックできませんでした。iPad OS 13.4対応版にアップデートされれば改善されるはずです。Keynoteでトラックパッドがちゃんと使えるようになったら、外回りでプレゼンする営業職の人はもうiPadだけで外に出られるのでは?

トラックパッドでどう変わる? 新型iPad Pro実機ハンズオン

そのほか、iMovieなど主要な純正アプリを試しましたが、トラックパッド向けにUIが変わったとか、劇的に操作感が変わったアプリは今のところありませんでした。

2本指ジェスチャはMacに近い操作感。Safariのスクロールやホーム画面のページを送るのに使います。

3本指で上にスワイプすればホーム画面へ。上にスワイプしたまま止めておくとマルチタスク画面へ。左右にスワイプするとアプリの切り替えができます。ホームバー(画面下のホームに戻るためのバー)と同じ挙動をするので覚えやすいですね。

新しいカーソルやジェスチャ操作は慣れれば直感的に使えますし、指でできることはトラックパッドでもできるようになりました。

逆に、指ではできなかったことができるようになっているかというと、そうでもありません。今のところはテキスト操作が楽になったことぐらいで、iPad上でできることは増えていません。

でもおそらく今後、カーソルに対応したアプリがたくさん出てきますよね。指よりも細かい操作ができるはずなので、一つの画面でよりたくさんのことができるインターフェースに変わっていくのかもしれません。

そうすればいよいよ、iPad Proで完璧に仕事がこなせる未来が来るのでしょうか?

iPad Proはいつかメインコンピュータになるの?

僕はこれまでiPadやiPad Proを合計4台使ってきました。

美しいディスプレイと軽くて薄い本体、10時間もつバッテリーにセルラー対応で、キーボードまでついている。iPad1枚で仕事ができたらどんなにすばらしいか、その未来に憧れて使い続けてきました。

しかし、いろいろ試行錯誤して最近思っているのは「iPad Proは最高のサブ機」なのだということ。いくらキーボードがついていても、Split Viewが使えても、ドラッグ&ドロップが洗練されても、Macを超える生産性が得られたとは思わなかったからです。仕事に必要なことはすべてできるっちゃできるんだけど、決してベストな選択肢にはならないという。

もしくはサードパーティのアプリがiPad OSの理想についてきていないのかもしれません。Split Viewやドラッグ&ドロップにいつまでも対応しないアプリはありますし、ぜんぜんフル機能じゃなかったiPad版Photoshopなんかは記憶に新しいです。

でも、原稿の下書きや写真の編集、絵を書いたり映画を見たり。単一の作業を切り出してiPad Proで行なうと驚くほどの処理能力や体験を得られます。だからiPad Proはあくまで最高のサブ機でありタブレットなのだ、と割り切ることができていたのです。

ところが今回突如発表された新型iPad Proはトラックパッドに対応していました。これには驚きました。AppleはやっぱりiPad Proをちゃんと仕事ができるデバイスにする気なのかと。だってそこにキーボードとトラックパッドがあったら、仕事するしかないじゃないですか。

思えば、MacやWindowsとくらべて仕事がしづらく感じたのは、従来のパソコンOSに依存した仕事のやり方を、そのままiPad Proでやろうとしてしまったからかもしれません。

iPad OSはその仕事の仕方さえも、つまりファイルやウィンドウといったコンピュータの概念さえも変えてしまうのが(おそらく)本来の使命なのだから、今までのOSと比べること自体がナンセンスです。

サブ機だとやっと割り切ったばかりの僕としては「また夢を見させてくれるんですね!」とワクワクしています。ドキドキしながら初めてのiPadを開封したあのときをまた思い出させてくれます。

いや、冷静なほうの僕に言わせると「まだ夢を見続けなければいけないのでしょうか?」「僕もう4枚も投資してるんですけどまだですか?」という歯痒い気持ちもあります。それでもAppleが、iPadをメインマシンに昇華させようとしているのはうれしいことです。

たかがトラックパッドに対応しただけなので、もしかしたらこれはまったくの見当違いで、大騒ぎするようなことじゃないのかもしれません。でもでも、「iPadで仕事する」という永遠の夢に少しでも時間を費やしたことがある人にとっては、トラックパッド対応はちょっとした事件なんです。iPad Proがついに大化けするスタートラインに立ったのかもしれないんです。

その答え合わせができるのは、6月のWWDCかも。次のiPad OSはどんな夢を見せてくれるのでしょうか。本当に夢で終わってしまわないように願ってます!

iPad Pro

発売日:3月25日(オンラインですでに注文可能)

価格:11インチ8万4800円〜、12.9インチ10万4800円〜

トラックパッドとカーソルに対応したiPadOS 13.4も3月25日にリリース予定。