昨今のスマートフォンではハイレゾオーディオを再生できるモデルが増えてきました。こうしたモデルではハイレゾストリーミング配信を利用すれば特別な準備なしですぐにハイレゾオーディオを楽しめます。
ハイレゾオーディオとはCD音質以上の高音質オーディオで、CDではカットされていた領域の音が含まれていたり、CDよりも分解能が高かったりするデータのことです。当然データ量は多くなりますが、5G通信も始まった現代ではさほど大きな問題ではなくなりつつあります。
こうしたハイレゾオーディオは、前述した対応スマートフォンもしくは対応アプリケーションを使うことで再生できますが、スマートフォン内部のオーディオ回路ではその音質をフルに表現できているとは言い難いものです。
ソニーのWALKMAN(ウォークマン)を筆頭に、ハイレゾオーディオを楽しむ専用機は国内外に多く存在しますが、どれもそこそこ高額で特に高い物だと数十万円もします。こういった専用機とスマートフォンとの違いの多くは、内部のデジタル信号の変換部(DAC:Digital to Analog Converter)とアナログパワーアンプ。ハイレゾオーディオのデジタルデータをアナログ信号に変換するDACの性能で音色(音質)が決まり、さらにそのアナログ信号をヘッドホンやイヤホンで再生するために増幅するアンプの性能で主に音の表現力が決まります。
専用機ではDACやアンプ、周辺の電子部品を厳選して妥協せずに使うため高額になりがちです。
さて、今回レビューするAstell&Kern「PEE51 AK USB-C Dual DAC Amplifier Cable」(以下、PEE51)は、スマートフォンで専用機並みの音質を楽しめるようにする製品。高級ハイレゾオーディオ専用機で知られた同ブランドから発売された、USB Type-Cポートに接続するタイプのDACとヘッドホンアンプを一体にしたアダプターです。
PEE51 AK USB-C Dual DAC Amplifier Cable ()
PEE51をスマートフォンやタブレットに接続すると、内部のデジタル変換部とパワーアンプ部がPEE51に置き換えられることになります。ですので、すぐにハイエンドオーディオに近い仕様へアップグレードできてしまいます。また、イヤホンジャックを搭載しない最近のスマートフォンでも、PEE51をイヤホンアダプターとして使えるわけです。
スマートフォンによってはイヤホンアダプターが付属していてDACが内蔵されているタイプの物もありますが、PEE51と基本機能は同じと言えるものの、オーディオ性能は似て非なるものです。
手軽にプレミアムオーディオ体験
Astell&Kern(アステル&ケルン)は、韓国iriver社のプレミアムオーディオブランドです。スタジオレコーディングのマスター音源がそのまま再生できる能力を備えたポータブルオーディオ製品を2012年から発売していて、プロやハイエンドオーディオマニアに高く評価されています。
PEE51では、ハイエンドオーディオにも使用されるCirrus Logic製DACチップ「CS43198」を、ステレオオーディオ左右のチャンネル別にそれぞれ独立で搭載。一般的なPCM音源で最大384kHz/32bit、DSD音源は最大11.2MHzでのネイティブ再生に対応しています。CD音源が48kHz/16bitですから能力の差は歴然ですね。
使用する電子部品から回路構成、プリント基板に至るまでオーディオ性能に特化されていて、出力される音はAstell&Kernブランドならではの超品質サウンドです。聴く人によってはその音色がAstell&Kernの物とわかる「シグネチャーサウンド」と表現されており、PEE51でもそれを実現しているとのことです。
同社のハイレゾオーディオプレイヤーは10万円を超える製品が多く、なかなか手が出せるものではありませんが、それに近いサウンドが1万5000円ほどで入手できるというのは驚きです。また、各種ストリーミング配信を活用する場合は、ハイレゾオーディオ再生専用機よりもスマートフォンの方が通信手段を多く持っているため、PEE51の様なUSBアダプタータイプを活用したほうが使いやすいとも言えます。
使い方は簡単でUSB Type-Cポートを持つ機器にPEE51を差込み、アダプター側のステレオミニジャックに普段使っているヘッドホンやイヤホンを接続するだけ。Windows / Mac OS / Androidに対応し、非公式ながらUSB Type-C搭載のiPad Proシリーズでも動作が確認できました。
ほとんどのオーディオアプリケーションで動作確認ができましたが、PEE51のフル機能を使うにはハイレゾオーディオに対応したアプリケーションを使う必要があります。
今回はAmazon Music HDを使って再生してみましたが、これまで聴き分けられなかった細かな音がハッキリと聴こえ、全体の明瞭(解像)度が増しているのがわかります。また、ボーカルが埋もれずに前に出ているかのような立体感も感じられます。しばらく聴いた後に以前の環境で聴きなおしてみると、その差に愕然とするはずです。
また、本体だけで最大192kHz/24bitのハイレゾオーディオの再生ができるXperia 1 IIで、本体のイヤホンジャックと、PEE51経由での再生で比較をしてみました。
Xperia 1 IIはオーディオ特性を追求するために3.5mmオーディオジャックが存在しています。それに合わせてスマートフォンでは珍しく、Cirrus Logic製パワーアンプ「CS35L41」をステレオ2チャンネル分として2つ搭載。ハードウェアやソフトウェア両面での音へのこだわりがあるスマートフォンです。PEE51と比較をするならこのレベルでないと意味がありません。
比較をしてみると流石に差はごく僅かですが、PEE51の方が解像感が高く低域がしっかりとした力強さを感じます。無音部のノイズもPEE51の方が少なく、少し大きめのボリュームで聴いた際の嫌なノイズ感もありません。出力はPEE51の方が大きいので、オーバーイヤータイプのヘッドホンでも十分な音量で鳴らせました。
映画やゲームでも迫力のサウンドを
PEE51はハイレゾミュージック以外でも活用できます。映画やゲームなどの再生もPEE51からの出力にするだけで、音楽以上に聴き取りづらい環境音に潰れた台詞もしっかり聴き取れ、効果音についても余裕のあるパワーアンプのお陰で迫力のある低音が堪能できます。映画の世界に引き込まれる感がより強くなりました。
ワイヤレスイヤホンも便利ですし音質もかなり良くなってきましたが、改めて有線接続は良い音だなと思いました。この環境で聴き始めると所有している音楽ライブラリを最初から聴き直したくなるはずです。
PEE51 AK USB-C Dual DAC Amplifier Cable ()